肉体

   肉体

どんな時も どんな日も

僕が自分という肉体から

抜け出せたことはない

涙に暮れた日も

怒りに震えた日も

肉体は僕を開放しなかった

心が怯え

気持ちが萎えても

どこへも行けやしない

ここが僕の居場所だろうか

どこに逃げれば 自由になれるのか

空を仰ぎ救いを求める

1羽のカラスが鳴きながら

山の向こうへ飛んで行った

陽が沈む

僕の瞳を赤く染める夕焼け

光を浴びた僕の体が

黄金色に輝いた

形ある姿が備わったものだけに

与えられた美しさ

かたく握りしめた拳を開く

どんな時も どんな日も

僕が肉体から守られていたのだ

両手を高く掲げ 背を伸ばす

この肉体が少しでも楽になるように

楽園を目指す人

   楽園を目指す人


必ずあるという楽園を目指し

人は歩く

そこには差別や争いがなく

悲しみや怒りもない

誰もが望んでいるという楽園を目指し

人は歩く

そこには妬みや嫉妬もなく

苦しみや辛さもない

楽園にたどり着けば

幸せになれる

それは呪文なのか

あるいは魔法なのか

楽園にたどり着けた人は

まだいない

どこにあるのかもわからない楽園を目指し

今日も歩く人

楽園に幸せがないことを疑う人はいない

みんなが幸せになるために

立ち止まることを拒否する

一番大事な人を

残したまま

夢の扉

   夢の扉

さあ それが出発の合図だ

窓を開けて 新鮮な空気を吸い込む

未知なる世界を

この目に焼きつけるために

味方がひとりもいなくても

君は大丈夫

どんな相手も敵ではない

どんな涙も無駄ではない

夢の扉が

今ひらいた

桜のつぼみと一緒に


※よろしければ、ご覧ください。
2017年3月24日(金) 午前0時10分~午前1時40分 (90分)
NHK総合で僕が出演した「自閉症の君との日々」が放映されます。
2014年放送の「君が僕の息子について教えてくれたこと」、
2016年のNHKスペシャル「自閉症の君が教えてくれたこと」
この2つの番組をまとめた総集編です。
【語り】 野田洋次郎さん(RADWIMPS)
【朗読】 三浦春馬さん
「もっとNHKドキュメンタリー」のホームページに
情報が掲載されています。

猫よ

   猫よ

ニャーと鳴く

猫が鳴く

足音を立てて近づく僕

猫がこちらを向いた

ニャーニャー威嚇をはじめる猫

まっしぐらに突進する僕

猫と僕の対決だ

一歩 足を前に出す

二歩 前足が後ろに下がる

三歩 両手を前に突き出す

四歩 尻尾がひるがえる

猫が走ってどこかへ逃げた

その様子を確認して

僕は立ち去る

良かった 元気だ

猫よ

野生の本能を忘れないで

人間に染まらないで

かわいい猫が

優しいだけで生きるには

この世界は狭過ぎる

人間は多過ぎる

命とは

   命とは

蕾が花開く時 世界が変わる

花が散る時 世界は終わる

命とは そういうもの

プロフィール

東田直樹

Author:東田直樹
会話のできない重度の自閉症。自閉症、絵本、詩集など21冊の本を執筆。東京大学(2回)、福岡女学院大学ほかで、講演会を開催。パソコンおよび文字盤ポインティングにより、援助無しでのコミュニケーションが可能。

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